線維芽細胞

線維芽細胞(せんいがさいぼう)を使用した美肌施術が、いま注目を集めています。
これまでの美容医療は、シワやたるみなどの皮膚の加齢症状に対して、ヒアルロン酸やコラーゲンなどを肌に直接注射して一時的に陥凹を埋めたり、ハリや弾力を出したりする対症療法が主流でした。しかし、再生医療が美容医療にも取り入れられて久しい近年では、ご自身の皮膚を少し採取してコラーゲンやヒアルロン酸を合成する線維芽細胞を培養し、再び肌に戻して移植された細胞が作り出すコラーゲンやヒアルロン酸で肌を甦らせるという根本的な治療が広がりつつあります。
なぜ線維芽細胞を移植するとエイジングケアができるのでしょうか? 今回は、この線維芽細胞の働きや効果などを紹介します。

線維芽細胞とは

線維芽細胞とは、ヒト(人間)の皮膚弾力を維持する成分を合成して、外来の衝撃から身体を守る役割を担う細胞です。線維芽細胞は、弾力性を維持するコラーゲンやエラスチン、保湿力を向上させるヒアルロン酸などの美肌に必要な成分を生み出し、肌のハリや潤いを保持しながら身体を守っています。

線維芽細胞は皮膚のどこにあるの?

線維芽細胞の正式名称は「真皮線維芽細胞(しんぴせんいがさいぼう)」です。その名が示すとおり、皮膚の真皮層に存在します。
ヒトの皮膚は上から順に、角質層を含む表皮、真皮層、皮下組織の3層で構成されています。真皮層は角質層のすぐ下に存在し、2〜3mm程度の厚みがあります。真皮層には血管や神経、リンパ管などの組織が通っており、血管の周辺には真皮幹細胞(しんぴかんさいぼう)という幹細胞が存在しています。この真皮幹細胞が細胞分裂する際に変化(分化)して、線維芽細胞を生み出します。

肌断面図

線維芽細胞は幹細胞なの?

幹細胞とは、自己と同じ細胞を作る能力(自己複製能)と、別の種類の細胞に変化する能力(分化能)を持つ細胞のことを指します。線維芽細胞は、真皮幹細胞から生まれますから幹細胞ではありませんが、増殖能力は維持されています。

真皮幹細胞に限らず幹細胞は加齢に伴って減少していきます。ただ誤解されたくないのは、生後間もない赤ちゃんでも100歳を超える老人でも幹細胞の機能は変わることはありません。ただ、加齢に伴う新陳代謝の変化から紫外線ダメージや、ケガなどの外部要因によって影響を受けやすい身体になります。加齢に伴って線維芽細胞の機能が低下していることで、コラーゲンなどの合成が追いつかず、真皮幹細胞の減少が、迅速に不足分の線維芽細胞を補えないためにコラーゲンなどの産生機能がだんだんと低下し、ハリや潤いが失われて肌が老化するようになります。

「線維芽細胞はスキンケアで増えますか?」とご質問をいただくこともありますが、ご自宅で使用する化粧品やマッサージなどでは線維芽細胞の減少を止めることはできません。線維芽細胞を増やすには医療技術が必要です。
当院でも提供している「線維芽細胞治療」と呼ばれる治療は、ご自身の線維芽細胞を採取して増殖させ、再び肌に戻す治療です。線維芽細胞が増えることによって、衰えた肌機能の回復を目指すことができます。

線維芽細胞治療は再生医療なの?

線維芽細胞治療の際は、ご自身の耳の裏から皮膚を採取し、その皮膚に含まれる細胞の培養を行います。
線維芽細胞を使用した治療は、患者さんご自身から取り出した皮膚より、線維芽細胞を培養すると言う操作が必要になるために、再生医療等安全性確保法に基づいて中程度のリスクが想定される「第2種」の再生医療に分類されます。

当院ではこのリスクに対応するために、院外の細胞加工施設に培養を委託するのではなく、院内に細胞加工施設(CPC)を設置しています。当院の医師の監督のもとで熟練した細胞培養の専門家が培養を実施し、培養中の細胞は患者様として扱い、エイジングケア治療をしているという認識で取り組んでいます。

線維芽細胞の美容効果

線維芽細胞が美容面で及ぼす大きな効果としては、先に述べたとおり、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンなどの皮膚の弾性と潤いを維持する成分を産生することによって、シワやほうれい線の軽減、ハリの回復、たるみの軽減、目の下のクマ解消、肌の凹凸改善などが期待できることです。

線維芽細胞の重要な機能は、これだけではありません。線維芽細胞はコラーゲンやヒアルロン酸、エラスチンの産生と同時に、これらを分解する酵素も分泌して古くなって沈着しているこれらの成分を分解して新しいコラーゲンなどに置き換える役割も担っています。ヒアルロン酸などの注射では決して期待できない、自然で生理的な治療が期待できます。
コラーゲンが集まってできた「コラーゲン線維」は、線維と線維の間に橋を架けて、強度を維持しながら水分も抱え込んでいます。この橋のことを「架橋(かきょう)」と呼びますが、老化によって分解が遅れると、余分な架橋がどんどん溜まってしまい、皮膚は硬くなって乾燥します。線維芽細胞は、このような古い架橋も分解して、肌の新陳代謝を促します。

産生と分解の両方の機能を備える線維芽細胞を使用した治療では、新陳代謝によって「自然に肌がきれいになる」効果が期待できます。古い組織を新しい組織に自然な形で変えていくことで、柔らかく自然な「たまご肌」や「赤ちゃんのようなもっちり肌」を目指すことができます。

線維芽細胞を使った治療のメリット

線維芽細胞治療には、以下のようなメリットがあります。

くり返し治療を行わなくて良い

コラーゲンやヒアルロン酸などのシワ取り注射は、3か月〜半年程度で体内に吸収されてしまうため、くり返しの注入が必要となります。
一方、線維芽細胞の移植は、肌の中でコラーゲンやヒアルロン酸が作られるため、年単位で効果が期待できます。

異物を入れる危険性がない

シワ改善目的で使用するコラーゲン製剤やヒアルロン酸製剤、ボトックス製剤などは、肌にとっては異物であり、低い確率ではありますがアレルギーの原因となる恐れがあります。また見た目も自然ではないことがあります。
線維芽細胞治療では、ご自身の細胞を使用するため、アレルギーのリスクはそれよりも低くなります。
当院では行っていませんが、PRPにフィブラスト(人工の成長因子)を混ぜて注入するエイジングケア治療を実施している施設もありますが、適切な量を注入することが難しく、注入量によっては大きく膨らんだり、しこりになったりする後遺障害を残すリスクがあります。
線維芽細胞治療は「肌組織を自然に代謝させながら、必要な量の新しい肌組織を補う」治療ですので、そういった副作用の心配はありません。

顔だけでなく他の部位の治療も可能

エイジングケア治療において最も治療のご要望が高い部位は顔になりますが、線維芽細胞治療は年齢が現れやすい手の甲や首のシワにも有効です。
当院でも、顔の治療で効果を実感した患者さんが、2回目以降に首やデコルテも同時に移植したいと希望するケースが非常に多く見受けられます。

培養した細胞を冷凍保存して、必要なタイミングで移植できる

移植した線維芽細胞も時間とともに少しずつ老化して、機能が衰えて減少します。
そのため当院では、まず細胞の定着率を高めるために最初の1年は2回~3回の注入を行い、その後はメンテナンスとして1~2年ごとの注入を推奨しています。
移植するごとに培養を行うとコストが嵩みます。数年後・数10年後に今の自分の若い肌細胞を使用できるように、当院では必要なタイミングまで培養した線維芽細胞を冷凍保存する「肌バンク」サービスを提供しています。
院内CPCにおいて-196℃ 以下で保存された組織や細胞は、劣化することなく長期間の保存(保管期間は1年~20年)が可能です。

線維芽細胞治療と幹細胞点滴治療、それぞれの美容効果

身体全体のエイジングケアを図る再生医療に、ご自身の幹細胞を培養して体内に戻す「幹細胞点滴治療」があります。
幹細胞は血管の中を巡りながら、血管新生作用や組織修復作用を促進する増殖因子やサイトカインを放出し、傷んだ組織の修復や再生を促すと考えられています。その結果、損傷を受けた体内の臓器が正常に戻り、抗炎症作用や免疫調整作用が身体の機能を良好に保たれることで肌の調子も整い、アトピー性皮膚炎の改善やエイジングケアにつながります。

一方、線維芽細胞は真皮層で働くため、点滴のように血管内投与することはありません。シワやたるみが気になる肌に、ピンポイントで線維芽細胞を注入します。
その結果、エイジングケア効果も局所的に現れます。

銀座よしえクリニックの線維芽細胞治療

当院ではご自分の線維芽細胞を移植して細胞を補充する「肌の再生医療(線維芽細胞治療)」を行っています。「肌バンク」サービスでは今の若い細胞を培養し、保存することが可能です。移植時より前の若い線維芽細胞によって、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチンの産生促進が期待できます。
主に加齢によって衰えた肌(シワ、たるみ、ハリの減少、血行不良による目の下のクマなど)の回復が目的ですが、当院では重度ニキビ跡の凹凸に対する治療としても行います。
培養した線維芽細胞は冷凍保管が可能で、数年ごとに定期的に移植できるほか、10年〜20年後にも治療に使用することができます。
興味を持たれた方は、お気軽にご相談ください。


線維芽細胞とエラスチンに関するよくある質問

エラスチンを増やす方法はありますか?
現在、エラスチンを直接摂取する方法はありませんが、エラスチンを生成する線維芽細胞を増やすことで、体内のエラスチンを増やすことができます。当院の肌の再生医療(線維芽細胞治療)では、ご自身の皮膚から線維芽細胞を採取し、培養してから移植することで、「コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン」の産生が期待できます。
モツ、牛スジ肉、鶏の手羽先、カツオ、軟骨などコラーゲンを含む食べ物やサプリメントはエラスチンを生成する作用があるコラーゲンが含まれています。
線維芽細胞が増えるとどうなりますか?
線維芽細胞が増えるとコラーゲンやヒアルロン酸など持続的な産生促進につながり、シワやたるみ、ほうれい線などの加齢症状の改善を図ることが期待できます。
線維芽細胞の働きは何ですか?
線維芽細胞は、コラーゲンやエラスチンなどの皮膚のハリや弾力を担う成分や、潤いを保つヒアルロン酸などの生成を担います。また、古くなった成分を分解して、肌の新陳代謝を促す役割も果たしています。
繊維芽細胞を増やす方法はありますか?
線維芽細胞の移植治療があります。それ以外で線維芽細胞を直接増やす方法は明らかになっていません。線維芽細胞を増やす方法ではありませんが、減るのを予防する方法として紫外線予防があります。またコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸が増える食事を摂ることで線維芽細胞を活性化させる働きが期待できます。
線維芽細胞を増やす食べ物はありますか?
線維芽細胞を増やす食べ物やサプリメントは残念ながら明らかになっていません。 ただし緑黄色野菜を摂ることで、紫外線による活性酸素ダメージを緩和することで、線維芽細胞の減少を抑えることができます。
線維芽細胞で肌再生する方法を教えてください。
線維芽細胞療法(肌の再生医療)は、今の若い細胞を培養し数年後に移植する治療方法です。線維芽細胞は老化や紫外線などのダメージにより減少していきます。培養してから移植することで、老化症状が起こる前(線維芽細胞が少なくなる前)の肌本来の状態に戻すことが可能です。

この記事の監修医師

廣瀬嘉恵医師

銀座よしえクリニック 総院長廣瀬 嘉恵 医師 医学博士

  • 東京大学大学院医学研究科修了 博士号取得
  • 日本再生医療学会再生医療認定医
  • 日本再生医療学会代議員
  • 日本皮膚科学会会員
  • 日本美容皮膚科学会会員
  • 日本美容外科学会会員
  • 国際抗老化再生医療学会会員
  • 日本温泉気候物理医学会会員

銀座よしえクリニック 総院長
廣瀬嘉恵医師のプロフィールはこちら

井上 肇 客員教授 薬学博士 医学博士

井上 肇 客員教授 
薬学博士 医学博士
銀座よしえクリニック 
再生医療センター 技術責任者
聖マリアンナ医科大学 形成外科 
客員教授

  • 星薬科大学大学院薬学研究科 博士号取得
  • 日本臨床薬理学会 指導薬剤師・認定薬剤師
  • 日本創傷治癒学会功労会員
  • 日本炎症再生医学会功労会員
  • 日本抗加齢医学会評議員
  • 日本組織移植学会評議員
  • 日本再生医療学会(前代議員)

井上 肇医師のプロフィール詳細はこちら

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