幹細胞培養上清液点滴とエクソソーム点滴には、どんな違いがあるの? 再生医療を提供している医師が解説します

幹細胞培養上清やエクソソームは、近年美容クリニックなどで各種の美容医療に応用されている再生医療用製剤です。類似した印象を与え、似たような成分構成であることから、なかには製剤名を「幹細胞培養上清液(エクソソーム)」と表記して同一視しているクリニックもあり、違いが分かりづらいという声もよく聞きます。
今回は特に注目されている点滴療法を軸にして、幹細胞培養上清液とエクソソームの特徴を比較しながら違いを解説します。

幹細胞培養上清液とは?

私たちは幹細胞を培養する時に、ヒトであれ動物由来であれ幹細胞が育つ様な培養液を細胞に与えなければなりません。幹細胞はこの培養液中に、増殖の過程で500種類以上ものタンパク質でできたサイトカイン(成長因子、増殖因子ともいう)をはじめ、酵素、タンパク質、そしてエクソソームなどを分泌する性質があります。このサイトカインなどを豊富に含んだ培養液のことを、幹細胞培養上清(幹細胞培養上清液)と呼びます。幹細胞培養上清液は幹細胞自体を除去した上澄み液のことです。

幹細胞培養上清液はどんな治療に応用されている?

幹細胞が分泌するサイトカインには体内の免疫を調整したり、炎症を抑制したり、痛んだ組織の修復を促す働きが発見されています。そのため、幹細胞培養上清液は、美容や健康増進のための治療に応用されてきました。その効果は、シワなどの加齢症状を緩和する美肌治療、発毛・育毛治療、全身倦怠治療、ED(勃起不全)治療など多岐にわたります。
当院の場合、全身倦怠治療、身体機能の回復、ED治療などの目的で点滴治療を行います。その他、美肌治療、発毛・育毛治療として、直接顔や頭皮に注入する治療も行っています。

幹細胞培養上清液のエビデンスは?

現在行われている治療に対して、有効性のエビデンス(根拠、臨床結果)を証明するために、医療機関や研究機関、バイオ企業などで臨床研究や製剤開発が行われています。

例えば、日本には先進的で有望な研究に文部科学省と日本学術振興会が研究費助成金を交付する助成制度があります。こう言った助成金の交付を受け、幹細胞培養上清を用いたヒトの組織再生や難治性疾患の治療を目的とした研究が多く行われ、2009年〜2024年の間に、基礎研究から新学術領域研究まで幹細胞培養上清関連研究は102件※1採択されています。

一例を挙げてみましょう。
超高齢社会の現代において歯の喪失は健康寿命短縮に直結するとして、2020年に新潟大学で「幹細胞培養上清由来液性因子による骨質改善法」の研究が申請され、429万円の科研費が支給されています※2
この研究では、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞培養上清液(MSC-CM)から単球走化性促進因子(MCP-1)を除去したdepMSC-CMを使用して加工した製剤を、頭蓋骨が欠損したラットに移植して、骨形成が促進されたことが確認されています。
組織再生のメカニズムの一端が明らかになり、将来の創薬にも期待ができる結果になりました。この研究結果は3つの論文雑誌に掲載され、国際会議を含む7つの学会でも発表されています。
一例ではありますが、幹細胞培養上清液は、人間の役に立つ次世代の再生医療用製剤として、続々にエビデンスが蓄積されています。

※1 2024年5月6日現在
※2「幹細胞・マクロファージ動態制御を行う幹細胞培養上清由来液性因子による骨質改善法」

幹細胞培養上清液のデメリットは?

クリニックで利用されている幹細胞培養上清液には、ご自身の幹細胞を培養して作成された製品(自家)と、他人の幹細胞を培養しえらえた培養上清を治療に用いる製品(他家)の2種類があります。現在培養上清治療と言えば、大半が他人の幹細胞由来(他家由来)の上清液が使用されています。
最近は汎用されており、安全性が確認されている幹細胞培養上清ですが、肝細胞培養上清液の点滴を受けた方は、慣習的に献血を控えていただく必要があります。これは他家の上清液が危険なものであるということではなく、国内の医療行政の中での慣習的な決め事で、古くから日常的に汎用されているヒト胎盤抽出物質など投与を受けた患者さんも献血を控える様指導されているのと同じです。
一方で、製品によっては幹細胞の由来が明確にされていない医療機関もあり、患者さんの不安をあおる一因です。

安全性に配慮した当院の幹細胞培養上清液

当院の治療では、他家の幹細胞培養上清液を使用していますが、安全性を担保するために、感染症検査で陰性である健康な成人女性の脂肪組織から幹細胞を採取して培養し、得られた幹細胞は再度外部機関に委託して感染していないことを確認の上、培養上清を作成しています。培養時には生物製剤の使用は一部避けられませんが、培養上清を作成する際には当院独自の技術でこれら成分を完全に除去していますので、これまでに患者さんに副作用が出た例は一件もありません。幹細胞を培養するために用いた脂肪組織の入手先や培養された幹細胞の詳細も全て開示しています。

エクソソームとは?

エクソソームとは、細胞から放出される微細な小胞の総称です。この小胞には情報伝達物質ばかりでなく、細胞内の新陳代謝で発生した老廃物や異物・毒物を解毒して分解した産物など多種類の成分を含みます。近年この小胞であるエクソソームの一部が、血液流れを介して他の臓器や組織の細胞に情報を伝達している事が明らかになりました。そのため、組織や臓器の細胞同士のコミュニケーションを促す物質としても考えられています。特に癌細胞が放出するエクソソームが癌の転移を促す事が証明され、エクソソームの役割の役割に注目が集まりだしました。
エクソソームはメッセンジャーRNAやマイクロRNAなどの核酸、タンパク質などを含みますが、基本的にエクソソームは細胞の老廃物と考えられており、何が含まれているかはまだはっきりと分かっていません。

エクソソームはどんな治療に応用されている?

エクソソームを用いた治療が最初に登場したのは、エクソソームを含む培養上清の点鼻治療です。
匂いを感ずる嗅覚神経は約1万〜1万5000種類の受容体があり、これらの受容体が様々に組み合わさって臭い(匂い)物質を感じ取って、脳がいい匂いや悪い臭い、くさくて逃げないといけない臭いなどを判断しています。
エクソソームを含む培養上清を点鼻することでこれらの受容体を刺激し、中枢神経系に働きかけて脳内の種々の神経伝達物質の分泌に影響するという研究は実施されており、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)に対して効果的とする研究も報告されています。

上記は点鼻治療でしたが、おそらくエクソソーム点滴でも同様の効果が出るのではないかと期待されています。
また2015年末には、難治性の皮膚潰瘍治療として患者さんの血液から作製したエクソソームを濃縮して皮膚潰瘍部位に塗布するという臨床研究が行われました。

自由診療を行うクリニックでは、美肌治療やエイジングケア、認知症予防、感染症の後遺症改善を目的として点滴投与されています。

エクソソーム点滴のエビデンス

医療におけるエビデンスとは、この治療法が効果的であると判断できる証拠のことを意味します。ですが、エクソソーム点滴のエビデンスはまだ確立されていません。

エクソソーム点滴のデメリット

使用されるエクソソームには、細胞の由来が不明な製剤があります。こう言った情報が非表示の場合は危険であり、注意する必要があります。
エクソソームは幹細胞培養上清液から抽出されますが、海外から輸入されるエクソソームの中には品質に疑問のある製品も存在する様です。
そのためエクソソーム点滴を受ける場合には、事前にクリニックに確認することをおすすめします。

幹細胞培養上清液点滴とエクソソーム点滴の違い

エクソソームは細胞由来物質であるため、私たちが広く用いている幹細胞培養上清液にはエクソソームがしっかり含まれています。

ヒトの治療に用いられるだけのエクソソーム100%の製剤は一般的にコストを考えると極めて高価になります。基本的に幹細胞培養上清液の中に含まれているエクソソームを濃縮して作成されます。このエクソソーム濃縮液を製剤化してエクソソーム点滴に使用しているものと推測されます。

幹細胞培養上清液点滴に使用される製剤には、生理的な量のエクソソームが含まれています。培養上清は1種類の成分で構成されているわけではなく、エクソソームをはじめ分泌された多種類のサイトカインが協力して効果を発揮していると考えられます。少しずれますが、漢方薬の効果は1種類の成分で機能を発揮しているわけではなく、生薬に含まれる多種類の成分が合わさって初めて効果を示すことと一緒です。従って、何か一つの物質だけを抽出した製剤のほうが良い結果が出るとは考えられません。
この考え方に基づいて、当院ではエクソソーム単体の点滴は扱わず、出自の確かな幹細胞培養上清液製剤での点滴治療を行っています。

美容クリニックで施術を受ける際のリスク回避術

美容医療で不幸な事故に遭わないようにするためには、まず美容医療のことを患者さんも正しく理解したうえで施術を受けることが重要です。
厚生省の許認可を受けた医療機関を受診するのはもちろんの事、美容医療の専門知識が豊富な医師に、しっかりと治療の説明(それもなぜその治療が必要であるかの理由と根拠)を受けたうえで選択するのが理想です。その際には、効果だけではなく起こりうる有害事象の可能性や有害事象の種類(デメリット)や程度などをきちんと説明してくれるクリニックを選んでください。
また点滴治療の際は、製剤の製造元も確認することが重要です。クリニックのホームページなどを見て、どのような製剤を使用しているかを確認してみてください。

銀座よしえクリニックの製剤製造について

当院で治療に使用する(他家)幹細胞上清液は、クリニック内に設置した厚生労働省へ提出済みの細胞培養センター(CPC)で製造しています。
幹細胞上清液の原材料となる組織・臓器の入手先などを全て開示していますので、気になる方はクリニックにてお尋ねください。

自由診療の定義は3種類

美容医療を含め自由診療を実施する(実施せざるを得ない)3つの大きな理由があります。

  1. 有効性は認めるが代替治療もあり国内での需要が少ないまたは生命に影響しない場合
  2. 欧米諸国で有効性が認められても日本では経験が無く認められていない場合
  3. エビデンスはないけれども経験的に治療を行っている場合

などが挙げられます。
国の責任において許可を下ろす保険医療の場合は税金が投入されるため、安全性と有効性そして国民に対する医療の平等性について慎重な検証が要求されます。従って一部の患者さんの利益と見なされてしまう医療行為は自由診療になります。

当院で提供する自由診療について

当院では信頼性の高い欧米諸国などで日本の厚生労働省に当たる公的機関(FDA、CE)で認可されている治療技術を導入しています。
自由診療はある意味チャレンジングな医療とも言えますが、実施にあたってはその治療技術の客観的根拠に基づいて実施されるべき医療です。チャレンジだからと言って、身体の生理状態や病態を無視して行う様な医療行為は厳に慎まなければなりません。
例えばPRPは、最初は口腔外科のインプラント治療に初めて使用され、その有効性の作用機序を考えると、皮膚科領域の疾患治療にも効果が期待されることから美容治療に応用されました。幹細胞培養上清液にもそういった論理的流れから、当院で採用しています。

厚生労働省においてもエクソソームは細胞が排泄する老廃物という定義で扱われており、残念ながら同様の認識で点滴は論理的信頼性がまだ乏しいため、当院ではエクソソーム点滴の治療を行っておりません。当院では安全性が確保され、エビデンスも確立しつつある幹細胞培養上清液での点滴治療を提供しています。

この記事の監修医師

廣瀬嘉恵医師

銀座よしえクリニック 総院長廣瀬 嘉恵 医師 医学博士

  • 東京大学大学院医学研究科修了 医学博士号取得
  • 日本再生医療学会再生医療認定医
  • 日本再生医療学会代議員
  • 日本皮膚科学会会員
  • 日本美容皮膚科学会会員
  • 日本美容外科学会会員
  • 国際抗老化再生医療学会会員
  • 日本温泉気候物理医学会会員

銀座よしえクリニック 総院長
廣瀬嘉恵医師のプロフィールはこちら

井上 肇 客員教授 薬学博士 医学博士

井上 肇 客員教授 
薬学博士 医学博士
銀座よしえクリニック 
再生医療センター 技術責任者
聖マリアンナ医科大学 形成外科 
客員教授

  • 星薬科大学大学院薬学研究科修了 薬学博士号取得
  • 日本臨床薬理学会 指導薬剤師・認定薬剤師
  • 聖マリアンナ医科大学大学院 医学博士号取得
  • 日本創傷治癒学会功労会員
  • 日本炎症再生医学会功労会員
  • 日本抗加齢医学会評議員
  • 日本組織移植学会評議員
  • 日本再生医療学会(前代議員)

井上 肇のプロフィール詳細はこちら

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