幹細胞治療とは、ヒト(人間)の幹細胞を点滴または注射で体内に投与して、病気やケガの改善を図る再生医療です。投与された幹細胞は体内で分裂したり、血管や脂肪、筋肉などの細胞に変化したりして、失った組織や機能などを元に戻す作用が期待されています。
一般的なクリニックでは、決まった組織や臓器の再生を図る「組織幹細胞」が使用されています。なかでも脂肪組織由来の幹細胞は、採取が簡単で、幹細胞数や有効な成長因子の種類が多いことから、当院をはじめ多くの医療機関で使用されています。
最近では治療対象の幅も広がり、病気やケガの治療だけでなく、シワやたるみなどのエイジングケアを目的とした幹細胞治療も行われるようになりました。
そこで気になるのが、治療のリスクや副作用などのデメリットです。幹細胞治療を適切に受けていただくために、これまで起きたトラブルやリスク、治療を受ける際に気をつけることなどについて解説します。
幹細胞治療は危険?
まず最初にお伝えしたいのは、日本の幹細胞治療はとても安全に配慮して行われているということです。
治療自体が自分の幹細胞を自分に戻すというもので、他人の幹細胞を使用していません。
さらに治療では血液中に幹細胞を入れますが、実は血管には赤血球や白血球、血小板などの他にもさまざまな細胞が流れています。例えば、他の細胞も血管やリンパ管の中を循環しており、これは体の自然な機能です。体内にある細胞が血液中を流れていくことに関して一部のリスク※はありますが、大きな問題はないと考えられます。
※当院の幹細胞治療のリスクについてはこちら
幹細胞治療でこれまでに起きたトラブル
現在多くの医療機関で再生医療が提供されているなかで、大きなトラブルとしては、過去に死亡したケースが一例と、訴訟になっているケースが数例※あります。いずれも当院ではなく、他院で起こった事例です。
死亡したケースとは、2010年に男性が自己脂肪由来間葉系幹細胞を点滴投与された後に、肺動脈塞栓症を引き起こして亡くなった医療事故です。これをきっかけに再生医療の安全性を確保するための法律が作られることになり、2013年に施行されました。
現在クリニックや大学病院などの医療機関が再生医療を提供するには、厚生労働大臣に「提供計画書」を届け出て、許可を受ける必要があります。さらに許可後に何かトラブルがあれば、厚生労働省などに報告が義務づけられているため、隠蔽することができません。
発表されている治療トラブルの数はとても少ないため、トラブルはほとんど起こっていないと考えられます。
※2023年7月現在
幹細胞治療の主なデメリット
幹細胞治療には、以下のようなデメリットがあります。
効果の即効性
例えば発熱や痛みのある時、解熱剤や鎮痛薬を服用すると大体の場合、症状がすぐ治まり、「ああ、よくなった」とすぐに治療効果を実感できます。美容医療では、ヒアルロン酸の注入後にすぐにシワが薄くなっていることを実感できるでしょう。
実は幹細胞治療は、即効性は期待できません。個人差はありますが、幹細胞は、治療を目的とする組織を根本的に修復する事で(シワの改善など)効果を引き出すために、長い目で(数か月〜)治療する根気が必要です。
効果の個体差
幹細胞治療の効果は、薬のようにある程度の効果が担保されているわけではありません。幹細胞治療を受けたけれども、希望する効果が得られなかった、という可能性もあることを知っておくと良いでしょう。
肺塞栓症
幹細胞治療の一番大きな副作用として、塞栓症が挙げられます。
肺塞栓症は、投与された幹細胞が肺の毛細血管で詰まってしまうことで起こります。この原因は、おもに投与される幹細胞の生存率が低い時に生じているようです。品質の悪い幹細胞はかなりの割合で死んでいるために、自分で動く能力が無いため毛細血管の中で詰まりやすく、塞栓(そくせん)となる恐れがあります。この塞栓が肺の血管に出来ると、呼吸で取り込んだ酸素を吸収したり、体内で発生した二酸化炭素を排泄出来なくなるため胸の痛みや呼吸の苦しさといった症状が現れて、最悪の場合は死亡する可能性もあります。
通常は幹細胞を培養する細胞加工施設(CPC)では幹細胞の生存率の基準を独自に設定していますが、全てを開示しているかは明らかではありません。
また、良質な幹細胞でも、一度に大量投与すると同様の症状を引き起こす可能性があります。投与された幹細胞は最初の24時間でほとんど肺に集まるため、肺塞栓のリスクはゼロではありません。
幹細胞治療以外の主なデメリット
どのような医療行為にも、以下のようなデメリットがあります。
刺入部の皮下出血・赤み
点滴や注射で幹細胞を投与する際に、皮膚に針を刺すわけですから、その際に刺した部分が皮下出血したり、赤くなったりする軽微なリスクがあります。
痛み
注射針を刺したり、点滴用のカテーテル(プラスチック製の細長い管)を血管内に挿入したりする際に、わずかな痛みが伴います。
感染
滅菌された一回使い切りの医療器材を用いますので、医療器具が原因で感染を引き起こす事はありません。針を刺す時には感染症のリスクがありますが、注射前に皮膚をしっかりとアルコール等で消毒することで回避できます。
また培養された幹細胞が細菌などに汚染されていると感染症を引き起こしますが、細胞培養加工施設(CPC)にも厚生労働省令で定められている厳しい基準が設けられていますし、私たちの施設では出荷前に無菌検査をクリアしないと出荷できないため幹細胞が原因となる感染リスクは大変低いです。
また以下のような事柄も、人によってはデメリットに数えられます。
金銭的な負担
幹細胞治療は、健康保険がほとんど適用されません※。さらに費用が高額であるため、経済的な余裕がないと治療を受けることが難しいと言えます。
※健康保険が使える再生医療等製品は、難病やがんなどの疾病を対象とした22種類のみ(2023年3月時点)。
新再生医療等製品の承認品目一覧
銀座よしえクリニックの幹細胞治療について
それでは、最大の副作用である肺塞栓症が起きないようにするにはどうしたらよいでしょうか?
患者さんとしては、クリニックがどのような細胞加工施設(CPC)で幹細胞を増やしているのかをなかなか知る事はできません。ですが、どれだけ安全に配慮しているかを見極めることが大切です。例として当院の体制をご紹介いたします。
細胞を培養する細胞加工施設(CPC)
当院は細胞加工施設(CPC)を独自に院内設置しています。再生医療等安全確保法のもと、PMDAからの立ち入り査察そして厚生労働省より承認を受けた細胞培養センターです。
外界と遮断した無菌室で、汚染を防ぐためにさまざまな対策が取られており、温度や室圧などが24時間モニタリングされています。また熟練した細胞培養の専門家が培養を実施しているだけでなく、培養中の細胞は真に患者さんであると言う姿勢で取り組んでいます。
詳しくはこちら →
幹細胞を採取して培養し、点滴製剤を製造する際には、以下のようなチェックを行っています。
幹細胞と生細胞数のチェック
当院では幹細胞マーカーと呼ばれる抗体と細胞測定器(フローサイトメーター)を使用して、幹細胞であることをまず確認するだけでなく、幹細胞の割合とそのさいに培養された細胞の生存率の確認を行っています。一般的な抜き取りチェックではなく、全製剤の確認を行っています。
幹細胞製剤の感染・汚染チェック
一般細菌検査はもとより、PCRマシンやなどを用いて、培養した幹細胞が感染してないか、汚染されてないかを事前チェックしています。
投与する細胞の数
投与する幹細胞は多ければ良いとは言えません。塞栓のリスクを抑えながら、患者さんの治療に最も効果的と考えられる数の幹細胞を投与します。
最後に大切なのは、チーム医療です。
医療従事者がチームとなって治療に取り組むことで、リスクは最小限に抑えられます。当院では、トレーニングを積んだ医師や看護師、細胞加工に携わる技術者が一丸となって、幹細胞点滴を始めとする再生医療を提供しています。ほとんどの場合点滴の際に、細胞加工者も医師と共に帯同しています。
幹細胞治療が適応しない人はいる?
幹細胞治療は、これまで治療法がなかった病気やケガに対して効果が期待できる素晴らしい治療法です。
ただし、幹細胞治療を含めた再生医療は、ここまで発展してきた標準的な医療技術の上に成り立っているものであり、標準治療をすべて凌駕するような技術ではありません。
もしも罹患している病気の治療が優先される場合は、治療後の選択のひとつやオプションとして考えることをおすすめします。
健康でエイジングケアとして受けたいと言う場合は、特に問題はありません。事前に医師に相談して、適しているかどうかを見極めてもらい、治療に向き合うことが重要です。
当院では再生医療を受けたいと訪れる患者さんの症状を伺って、適応があるかどうか医師が判断し、治療の提案を適切に行っています。
銀座よしえクリニックの幹細胞治療
当院でも成人のアトピー性皮膚炎の治療を目的として、ご自身の脂肪から採取した幹細胞の点滴療法を行っています。幹細胞が免疫を調整することで、炎症やかゆみを抑えて、傷んだ組織の再生を促す作用が期待されます。
興味を持たれた方は、お気軽にご相談ください。
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この記事の監修医師
銀座よしえクリニック 総院長廣瀬 嘉恵 医師 医学博士
銀座よしえクリニック 総院長
廣瀬嘉恵医師のプロフィールはこちら
井上 肇 客員教授
薬学博士 医学博士
銀座よしえクリニック
再生医療センター 技術責任者
聖マリアンナ医科大学 形成外科
客員教授
井上 肇のプロフィール詳細はこちら